経済産業研究所 田所氏がプライベートエクイティ市場について講義

スタートアップの発展には、プライベートエクイティ市場(未上場株式市場)の整備が欠かせません。

2025年6月25日の「ベンチャー企業論A」では、経済産業研究所の田所創氏をお招きし、「プライベートエクイティマーケット未発達の日本のエコシステム」と題してご講義いただきました。

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田所創氏

日本では、起業活動が活発とはいえない状況が続いています。その背景には、個人の資質だけでなく、制度的な規制の多さが大きな要因となっているといわれています。

田所氏は、日本では株式を発行する「プライマリー市場」が未発達であるため、その後の「セカンダリー市場(流通市場)」も十分に機能せず、結果として企業が成長しにくい構造になっていると指摘しました。市場が十分に発達していないことが、企業の成長機会を阻む大きな要因になっているのです。これは、米国のように十分に成長した企業がIPO(新規株式公開)を経て、さらに飛躍するというモデルとは対照的です。

日本では、企業が資金を調達しようとする際、50人以上の投資家に株式の購入を勧誘するには有価証券届出書の提出が義務付けられており、手続きやコストの負担が大きくなります。そのため、実務上は「少人数私募」として、49人以内の投資家を対象に、3か月間限定で企業自ら増資活動を行うケースが多いのが現状です。一部のスタートアップは、ベンチャーキャピタルからの資金調達ができ多額の資金を得ることに成功します。それ以外の多くの企業が行う縁故による増資には限界があります。

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一方で海外では、証券会社が積極的にスタートアップ支援に関与したり、クラウドファンディングの仕組みが整備されたりと、プライベートエクイティのための環境整備が急速に進んでいます。その結果、資金が円滑にスタートアップへと流れ、日本と比べて企業にとって有利な状況が生まれています。

受講者からは、「未上場株式市場の課題が明確であるにもかかわらず、なぜ制度改革が進まないのか?」という質問がありました。田所氏はこれに対し、1980年代のアメリカでは簡易開示を強化して店頭市場を発展させたのに対し、日本では同時期に店頭販売に関するトラブルが発生し、規制が強化されたことが背景にあると説明しました。また、JASDAQの下部市場として設けられたグリーンシート市場も、厳しい規制のもとに置かれており、それが市場の成長を阻む要因となったとも指摘しました。こうした歴史的経緯が、現在の制度改革を困難にしているのです。

しかし、現在は特定投資家向けの新たな制度整備も進みつつあり、今後の展開には注目が集まっています。

講義終了後、受講者からは「他国との比較を通じて、日本の資金調達環境の課題を理解することができた」、「日本もエクイティ主導の成長を推進すべきという意見に共感を覚えた」、「起業家の挑戦が制度によって抑制されている現状に、強い危機感を抱いた」といった感想が寄せられました。

貴重な講義をありがとうございました。