ビートルズ来日学(宮永 正隆著)
Date:2019.11.01
書名 「ビートルズ来日学」
著者 宮永 正隆
出版者 ディスクユニオン
出版年 2016年6月
請求番号 764/121
Kompass 書誌情報
昭和41年のザ・ビートルズの来日という出来事を入り口として、著者は日本についての深遠な探求を行っています。メンバーを東京へと連れてきた旅客機の機内から宿泊先の都内のホテル、そして5回の公演が行われた日本武道館まで、様々な場所でビートルズのメンバーと接した人々に著者は面会して、詳しい話を丁寧に聞いています。客室乗務員、ファースト・クラスの同乗客、武道館公演の中継番組を制作したテレビ局職員(のちに『初めてのお使い』シリーズを成功させた人物)、赤坂のホテルの客室係、メンバーに日本土産を売った東京の骨董商、など、多彩な顔ぶれの証言者たちのことばから、4人のスターの素顔とともに日本社会の様々な相貌が明らかにされています。
この本の収穫はミーハーな芸能談義ではもちろんなく、知的な文明論です。著者も証言者たちも、ビートルズ来日という出来事を鏡として、日本人とは何かと問いかけているのです。若くしてデビューし、独自のスタイルの音楽で世界をまたたく間に席巻した4人のイギリス人たちが、芸能者として最高のプロであったことは言うまでもありません。しかし、この本に証言を残した各界の日本人たちも、みなそれぞれの領域で第一級の職業人でした。メンバーを運んだリムジンの運転手、公演を中継したテレビ局の技術者、武道館の楽屋でメンバーを接待した女性、来日記念のお土産のスーツをたった数日で仕立てたテーラーの社長、など、各専門分野の優れた職人たちが著者に導かれて紡ぎ出すことばは、一流のプロフェッショナルであるために必要な資質や心構えについて、有益な示唆を与えています。
同時に、この本はよくできた推理小説のように読んで楽しんでもよいでしょう。誰がどこで撮ったか全くわからない来日中のスナップ写真の謎、初回公演のステージ上で首を振って不安定だったマイクスタンドの謎、さらに行方不明なはずの公演中の映像(故内田裕也氏ら前座に登場した日本人の映像が収められていた)が数年前に某動画投稿サイトに突如アップされた謎など、ビートルズ来日にはいまだに説明のつかない不思議なことが多く残されているそうです。
総合教育研究部 教授 白鳥 義博